懲戒処分前に「始末書」を要求することの問題点

問題を起こした社員に対し、事実関係を確認するために、「始末書」の提出を要求しました。ところが、当社の就業規則を読んでみると、譴責の具体的内容として、「始末書をとり将来を戒める。」と記載されています。正式な懲戒処分を行う前に始末書を求めることは、問題がないのでしょうか。

正式な懲戒処分の前に「始末書」の提出を要求することは、後に行われる懲戒処分が「二重処罰に該当するので無効である。」と主張される虞があります。
そこで、事実関係調査の段階では、「顛末書」(てんまつしょ)や「報告書」といった書類の提出を求めるのが相当であると考えます。


会社は、問題を起こした社員を懲戒処分とするか否かを判断するため、@ 問題の具体的内容、A それにより、企業秩序が損なわれたものであるかを確認する必要があります。

このうち、問題の具体的内容を確認するため、まずは行為者に事実関係を確認する必要があります。

 

そして、上記の事実確認を行う過程において、会社は社員に対し、「始末書」の提出を要求することがあります。これは、主として事実確認を行うために提出を要求するものですが、注意指導の一環として提出を要求する面もあります。

 

 

就業規則上、懲戒処分(例えば、譴責)として「始末書」の提出を要求することとなっている場合、「懲戒処分前の始末書」と「懲戒処分としての始末書」の関係が問題となります。

 

「懲戒処分前の始末書」とは、事実確認のための報告書であるのに対し、「懲戒処分としての始末書」とは、事実関係を調査した後、懲戒処分の必要性、相当性が認められた場合に行われる具体的な処分となります。したがって、両者は、その目的や内容は異なるものです。

 

しかしながら、いずれも「始末書」という表題の書類であり、上記のような違いは一見して明らかとはいえません。

このため、「懲戒処分前の始末書」を提出させた後に、その社員を懲戒処分とした場合、すでに「始末書」を提出しており、懲戒処分を受けているので、後に行われた懲戒処分は二重処罰に該当するので無効であると主張される虞があります。

 

 

「言いがかり」のような内容ですが、万が一、このような主張が出てきた場合、会社としては、「懲戒処分前の始末書」と「懲戒処分としての始末書」の違いを説明した上で、先に求めた「始末書」とは、事実報告を求める書面であったことを説明する必要が生じます。

しかし、本質的ではない点に余計な時間と労力をとられる結果となります。

 

 

このような可能性を考えると、懲戒処分前の段階では、事実確認のための「顛末書」(或いは、「報告書」)の提出を求め、調査の結果、懲戒の必要性が認められた場合には、懲戒処分としての「始末書」の提出を求める、という社内ルールを確立し、運用すべきであると考えます。

行為者が精神科の診断書を提出してきた場合の対応

ある社員が問題行動を起こしたため、懲戒処分を検討していたところ、その社員より、メンタル(病気)に罹患している旨の診断書が提出されました。この場合、どのように対処すればよいでしょうか。

事後的に診断書が提出されたからといって、メンタル(病気)が原因で問題行動を起こしたと認められるわけではありません。問題行動の具体的内容やその当時の就労状況を調査して、問題行動とメンタル疾患の関連性がないと判断できるのであれば、懲戒処分は可能であると考えます。

懲戒処分を検討するための事実調査の途中で、本人から、メンタル(病気)に起因して問題行動を起こしたとの弁明がなされ、精神科の診断書が提出されることがあります。

 

しかし、問題行動の具体的内容、その当時における本人の就労状況から、行為の当時、本人がメンタル(病気)に罹患していたとは認められない場合には、メンタル(病気)と問題行動は無関係であり、懲戒処分は可能であると考えることができます。

このような診断書が提出された場合には、問題行動が行われた当時の状況(特に、就労状況)をしっかりと調査することが重要です。

 

なお、メンタル(病気)の診断書が提出された場合、事実関係の調査には、本人の体調に配慮しておく必要があることは、言うまでもありません。

懲戒処分前の自宅待機中に支払う賃金の額

ある社員が問題行動を起こしたため、懲戒処分するかを判断するための調査に入りました。その間、当該社員を自宅待機命令としましたが、給料を支払わないといけないのでしょうか。また、給料を支払わないといけないとした場合、60%を支払えばよいのでしょうか。

自宅待機命令の場合、会社はその社員に対し、給料を支払う必要があります。この場合、60%ではなく、100%の給料を支払わなければなりません。



自宅待機命令は、会社が社員に対し、問題行動を調査するまでの間、自宅で待機しているように命令するものです。この場合、社員は仕事をしていないものの、勝手にサボっているのではなく、会社の命令に従ったものですから、会社は社員に対し、給料を支払う必要があります。

 

支払額については、労働基準法26条に基づいて60%を支払えばよいと考えていらっしゃる方もいますが、正しくは賃金の100%を支払う必要があります。労働基準法26条は、労働者保護の観点から、民法上は、会社(使用者)が給料の支払義務を負わない場合であっても、60%の限度で会社に支払義務を負わせるものです。

 

設例のようなケースは、会社側の都合によって自宅待機を命ずるものであるため、民法上、会社は社員に対し、100%の給料を支払う義務を負うことになります。

 

社員が逮捕された場合の対応

ある社員の家族より、本人が逮捕されたので会社に来ることができないとの連絡がありました。現時点では、どのような理由で逮捕されたのか不明ですが、逮捕された理由次第では、会社としても、何らかの処分を検討しなければならないと考えています。このような場合、どのように情報収集すればよいでしょうか。

まずは本人と接見して、逮捕された理由(犯罪事実)を確認し、本人が犯罪事実を認めるものであるかの確認をして下さい。なお、接見が禁止されている場合には、本人の弁護人に対し、これらの点について確認するのがよいと考えます。

 社員が逮捕されたとの連絡があった場合、まずは家族より、どのような理由で逮捕されたのか、分かる範囲で聴取するとともに、現在、本人がどこにいるのか(身柄拘束されている警察署)、弁護人の有無(いる場合には、その連絡先)を確認して下さい。

 なお、家族は正確な情報を把握しているわけではないので、家族の情報に基づいて処分を検討するのは相当ではありません。

 

 本人が身柄拘束されている場所が判明した場合(多くの場合は警察署であると考えられます。)、そこに連絡して、接見できるか確認して下さい。

 接見できる場合には、本人と面会して、逮捕された理由(犯罪事実)を確認するとともに、犯罪事実を認めるものであるかを確認して下さい。

 この時点で、本人より会社を辞職したい旨の申し出があった場合、退職届を作成してもらい、それを会社に送付するために必要な手続をとってもらって下さい。

 

 接見禁止となっている場合には、本人と面会することができません。この場合、家族に弁護人がいるかを確認し、弁護人がいる場合には、弁護人に対し、上記の各点を確認して下さい。

 このとき、弁護人から守秘義務の関係で回答を拒絶される可能性も考えられます。回答を拒絶された場合には、弁護人を通じて、本人に対し、会社においても事実関係を確認する必要があるので、逮捕された理由等を弁護人を通じて正直に回答するよう説得して下さい。